NEWS加藤シゲアキ 長編第3作発表「人はいつだってリスタートできる そう信じたいんです」

国内 2014/4/9 12:00 - ダ・ヴィンチニュース
『Burn. バーン』(加藤シゲアキ/KADOKAWA 角川書店)

『Burn. バーン』(加藤シゲアキ/KADOKAWA 角川書店)


 ジャニーズ事務所所属のアイドルグループ「NEWS」のメンバーであり、話題のドラマ『失恋ショコラティエ』などで俳優としても活躍する、加藤シゲアキ。2012年1月に『ピンクとグレー』で小説家デビューを果たした際、彼は年に1冊ペースで書き続けると宣言した。まさに有言実行の人だ。このほど〈渋谷サーガ〉最新作となる長編第3作『Burn.-バーン-』を完成させた。

「2冊、3冊と本を出していくことで、みなさんに信頼してもらいたかったんです。一発屋の気まぐれじゃなくて、“あっ、この人は本当に書く人なんだ”と。そうすることで、ジャニーズという色眼鏡をだんだん薄くすることができるんじゃないかなと思ったんです」

 今回の作品は、前の2作を書いたからこそ書けたという。『ピンクとグレー』で挑戦したミステリー的な構成の妙と、続く『閃光スクランブル』で挑戦したエンターテインメントの醍醐味。2作で獲得したテクニックを「いいとこどり」したうえで、「今まで書いたことのないものを書きたかった」。それは何か?

「『ピンクとグレー』では男同士の関係を書いて、次の『閃光スクランブル』では男女の関係を書きました。じゃあ次は、家族という関係をテーマにしてみようかなと。ただ、僕自身は家族にそれほど難がないというか、家族について真剣に考えざるをえなくなるようなシチュエーションに陥ったことがなくて。考えるきっかけになったのは、仲のいい友人同士が結婚したことでしたね。ふたりが結婚して、彼女のお腹が徐々に大きくなって、その子供が生まれて……。それを全部近くで見ることができた。新しい家族を作るという時の、女性の気持ち男の気持ちがともに聞ける場所にいられたというか。そんな二人を見ながら、自分なりに家族について考えたり思い出したりしたことをここで書いてみたいと思ったんです」


■「子供になる」過去と「父になる」現在を描く

 今年30歳になる劇作家・夏川レイジが、演劇界の最高賞を受賞するシーンで物語は開幕する。華やかなムードは、年上の尊敬する女優・世々子との会話によって一変する。レイジは20年前、天才子役と呼ばれ、世々子とも共演を果たしていたのだ。ところが。「あの実は……二十年前の記憶だけ欠けてるんです」「自分が子役をやっていた記憶はほぼありません」

 マネージャーであり、私生活のパートナーでもある望美は妊娠7カ月だ。授賞式の帰り道、過去の記憶がフラッシュバックしたレイジはパニックを起こす。ハンドルを握る望美にも動揺が走り、ふたりは交通事故に巻き込まれる。子供はどうなるのか。記憶を封じ込めたくなるほど重いレイジの過去とは? 現在のレイジと、小学4年生のレイジ─ふたつのパートがスイッチしながら、物語は進んでいく。

「子役時代のレイジは、あえて“子供っぽい”ことをしたほうが大人にかわいがってもらえると思っている。それって大人から見たらかわいいかもしれないけど、人間的じゃないような気がして。自分がないってことじゃないですか。実は僕自身も昔、そういうところがちょっとだけありました。そんな子供が人との出会いの中で、本物の喜怒哀楽やいろんな感情を獲得していく。ヘンな言い方だけど、子供が“ちゃんと子供になる”。その一方で、大人になったレイジが“父になる”。ふたつのプロセスを一緒に書くことで、物語が立体的になると思ったんです」

 圧巻はやはり、レイジの人生を決定づけた事件が起こる、過去パートだ。小学校4年生のレイジは、テレビに出ていることをからかわれ、いじめられていた。父はおらず、母は自分のマネージメントのために飛び回る日々。孤独を抱えた少年は渋谷の宮下公園で、ホームレスの徳さんと出会う。ブルーシートで囲われた家に招かれ、他愛無いおしゃべりを交わす。「レイジ、飲み物買ってくれ」「子供にねだるの?」「俺はホームレスだぞ」。

 徳さんはレイジに、一人の男として向き合う。やがてドラッグクイーンのローズも加わり、奇妙な疑似家族が誕生する。その関係性には、作家自身の憧れが込められていた。

「僕自身は、自分の父や母に対する恨みなんてない。ただ、父と母ってほんとにひとりずつじゃなきゃいけないのかなとは思うんです。田舎から出てきた人が、“私の東京の母!”とかいうじゃないですか。そういう感覚ってたぶん、誰しも何らかの形で経験したことがあると思う。特に男は、父という存在をいっぱい持ってるから。僕自身のことを振り返っても、ジャニーズに入ってからかっこいい先輩たちにたくさん出会って憧れて。その先輩たちが右も左もわからない僕を心配して愛情を注いでくれたんですよ。アイドルとしての技術的な部分もそうだし、生き様も教えてもらった。それって、父だなと思うんですよね。レイジの場合は、その相手がホームレスだったりドラッグクイーンだったりする。その疑似家族の中で、彼は本当の母の思いが理解できるようになるんです」

 つくづく思う。加藤シゲアキの小説の登場人物は、寂しい魂の持ち主ばかりだ。そんな彼らが回復するプロセスに、読者は大きな共感を抱く。

「自分でもそういう話ばっかり書いてるなってよく思います(笑)。たぶん僕自身が、リスタートできるってことを信じたいんじゃないかな。いつだって変われるし、成長できるし、きっかけはどこにあるかわからない。自分自身の願いも込めて、そのことを書きたいんだと思うんです」


■書かれている言葉の裏には選ばれなかった言葉がある

 物語の後半、渋谷という舞台ならではの事件が巻き起こる。「渋谷再開発浄化作戦」。行政サイドは、宮下公園のホームレス達を一掃しようと強制排除を執り行う。そんななか、ある人物が意外な行動を起こす。読めば誰もが、そのシーンを脳裏に焼き付けられる。そして、作家が「燃える」を意味する「Burn」を題名に選んだ理由を理解することになる。

「どんなに変わってほしくないと願っても、変わってしまうものは変わってしまう。あのシーンで書きたかったのは、そういった世界の無慈悲な感じです。実はほかにも、随所に火のモチーフを入れています。『ピンクとグレー』をマンガ化してくださった作者さんが、コミックスのあとがきで“湿度の高い小説だった”と書いてくださっていたんですが、確かに読み返してみると水っぽいんですよ。『閃光スクランブル』は、光ですよね。じゃあ『Burn』は火にしよう、ということは最初に考えたんです。自分が燃えるように書きたいという思いも込めていますけどね。“シゲアキ、お前の魂を燃やせ!”みたいな(笑)」

 本作は「かなりの難産だった」という。おおまかなストーリーは早い段階でできあがっていたが、登場人物たちのそれぞれのドラマをどこまで掘り下げるか、悩みに悩んだそうだ。書きすぎると、レイジを軸に描き出そうと試みた「家族」のテーマが沈んでいってしまう。だが、書いてみなければ、個々の心のかたちは理解できない。作家が選んだのは、しっかり書いたうえで、ばっさり削ることだった。

「例えば、徳さんが過去に何をしたのかということは、本の中には書いてないです。でも、第一稿では3万字ぐらい書いてるんですよ。それをばっさり切った時の悲しみたるや(笑)。じゃあ最初から書かなければよかったかというと、そういうことではないんですよね。書いたうえで削ったからこそ、行間が膨らんだんだと思うんです。書かれている言葉の裏には、選ばれなかった言葉も詰まっているんだな、と。今回改めて、小説というものを学ばせてもらいました」

 加藤シゲアキは笑顔で語る。小説を書くことは難しい。でも、だからこそ、楽しい。

「今回は集大成でもあり、新しいことにチャレンジした作品でもある。今できる自分の全ては詰め込んだと思います。家族って、誰もが経験していることじゃないですか。それを題材にする以上、読む人を選ばずに楽しめる、読みやすい作品にしようって一番意識して。いっても“いい話だったな”ぐらいの感想では終わらないように、香辛料強めなんですけどね(笑)」

 〈渋谷サーガ〉最新作を充実の完成度で書き上げた今、ここから、作家はどこへ行こうとしているのか?

「自分を壊したいんです。中途半端に小器用なところがよくない(笑)。もっといびつなものを書いてみたいという気持ちが今は強いですね。次は短編でチャレンジしてみるのも面白いかも。自分はこういう作家なんだというカラーは決めたくないんです。ただひとつ決めているのは、これからも書き続けるということだけですね」

取材・文=吉田大助

 

 

 

 

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